小学校のプログラミング教育が2020年から必修化になり、授業内容でプログラミングを使っていくことになります。
プログラミング教育は、子供たちへのITへの興味を高めたり、論理的な思考力(プログラミング的思考とも言う)をつけることができるといったメリットがあると言われています。
しかし、メリットが語られることが多い一方で、小学校でのプログラミング教育にデメリットや問題点はないのでしょうか?
そこで、小学校プログラミング教育の問題点に関して述べていきたいと思います。
目次
児童の負担が増える?
まずは、小学校でのプログラミング教育が始まるにあたり、児童への負担はどうなるのか見ていきたいと思います。
新学習指導要領が始まり、2020年から授業の中で、プログラミングが取り入れられることになります。
これは、既存の算数や理科と言った教科の中で、プログラミングを扱うことになっていきます
※プログラミングという”教科”が増えるわけではありません
また、小学校によっては、各教科の時間とは別に時間を調整し、プログラミング教育を行うこともあります。
ここから、次の2つの懸念が考えられます。
- 既存の教科のための時間が減る
- 授業外での教育時間が増える
既存の教科のための時間が減る
既存の教科の中でプログラミングを扱う場合、その教科で必要だった時間が減ることになります。
つまり、例えば、これまで算数にあてられていた時間を、プログラミングのために使うということです。
そうなると、これまでより少ない時間で、教科の内容を理解していく必要があるということが考えられます。
さらに、コンピュータの操作に慣れていない児童であれば、その操作を覚えたりする必要があり、本来の授業内容を理解することが後回しになる可能性もあります。
もちろんプログラミング体験をすることによって、授業内容をより深く理解することも考えられます。
「プログラミングをする」こと自体に児童が集中してしまうことがないよう、教員が授業内容も教えながら、うまくプログラミング教育を取り入れていく必要があるといえるでしょう。
文部科学省の発行している「小学校プログラミング教育の手引き」の中でも、”プログラミング自体はできる限り平易に行えるようにし、教科の内容をより確実に学習する”という指針が示されています。
まとめると、既存教科のための時間は減る懸念があるが、プログラミング教育によって学習内容をより理解することを目指していると言えるでしょう
授業外での教育時間が増える
各教科の時間とは別にプログラミング教育を実施する小学校もあります。
各小学校の裁量によって、時間を確保し、以下のような目的で実施されます。
- 「プログラミング的思考(論理的思考)」を育む
- プログラムの働きや、社会がコンピュータのなどの技術によって支えられていることに気づく
プログラミングの楽しさや達成感など体験できるプログラミング教材の利用や、プログラミング言語やその技能の基礎についての学習を実施する取り組みなどを行っていきます。
この取り組みは、プログラミング教育をさらに推し進めるものであると言えます。
しかし、同時に、教科外での実施となるため、児童の学習する時間は増えることになります。
児童によっては、これを負担に感じるかもしれません。
そのため、文部科学省の方針としては、各小学校が児童の発達の段階や実態に沿って、負担が大きくならない範囲で実施するように定めています。
プログラミング教育によって教科時間外での学習が増えることもあるが、児童の無理のない内容にならないよう、各小学校が計画を立てていく必要があると言えます。
教員の負担も増える?
ここまでは児童の負担に関して述べましたが、教員の負担はどうなるのでしょうか?
授業内容の変更が必要
新しくプログラミングを授業内で実施していく必要があるため、これまでとは授業内容を変えていく必要があります。
教員によって、これまでの自分の授業の”流れ”というものがあると思います。
しかし、今回のプログラミング教育の導入によって、授業内容の構成や、時間配分などを一から変えていく必要があります。
また、授業前にその内容を自分で理解し、それを児童にどう教えたらいいのか考えていく必要もあります。
そして、算数や理科など複数の教科でプログラミングを実施していくとなると、そのための授業準備を各教科でやっていくことになります。
ここまでの内容を見ると、教員の負担はほぼ確実に増えると言えるでしょう。
そのため、次のような仕組みで、教員をサポートすることがあります。
- 校内研修
- モデル授業
- ICT支援員
校内研修
校内研修とは、小学校において、教員のICT活用指導力を目的にした全体研修や個人研修を実施していく制度です。
ICT活用指導力は、児童がICT(コンピュータ機器等)を活用して学習を進めることができるよう、教員が指導する能力のことです。
校内研修では、学校や教員の実態に合わせて研修計画を作成し、校内の研修担当が講師となったり、教育センターの研修に参加した教員を講師として研修を行います。
また、必要に応じて外部の講師を招いたりすることで、研修の充実を図ります。
教員のICT活用指導力を見るため、チェックリストを活用することで一人一人の理解度や達成度を把握していきます。
そこから研修計画を立てていき、学校独自で評価を行って研修内容を都度修正して実施することで効果的な研修につながります。
モデル授業
モデル授業とは、授業カリキュラムを考えるために、参考にするお手本授業のことです。
プログラミングを授業内でどのように教えたらよいか、そのお手本を示してくれるため、授業内容の設計に役に立てることができます。
各地でモデル授業を考える取り組みが始まっており、うまく活用していくことで良い授業準備につなげることができると思います。
ICT支援員
「ICT支援員」という制度の活用も進められています。
ICT支援員とは、教員と相談したり依頼を受けたりして、ICT(コンピュータ機器等)の活用支援を行う人たちのことです。
プログラミングを実施するにあたっては、プログラミングの専門的な知識が必要になることがあります。
ICT支援員のサポートをもらうことで、授業の組み立てと円滑な授業進行に活かすことができると考えられます。
機器の準備も必要
プログラミングには、パソコンやタブレットの設定が必要になります。
その設定も、授業準備として教員が行うことになります。
また、設定した後は、きちんとパソコンやタブレットが動作するか確認も必要です。
授業中にも、「パソコンが動かなくなった」などのことがあれば、その対応をしていくことになります。
そして、授業後もタブレット端末などで使ったのであれば、その回収と管理も必要となってきます。
このようにプログラミング教育は、機器の準備や管理が必要なため、教員の負担も増えるでしょう。
そのため、上で紹介した「校内研修」や「ICT支援員」を活用して、負担を軽減していくことが必須と言えます。
学校の設備も準備が大変
プログラミング授業を行うためには、生徒一人一人が利用できるパソコンやタブレット端末を揃える必要があります。
そのため、児童数を考えて、機器の購入や設置を進めていくことが求められます。
では、現状はどうなっているのでしょうか?
平成29(2017)年8月の「学校におけるICT環境整備の在り方に関する有識者会議 最終まとめ」では、1人1台専用のコンピュータの整備が望ましいとしています。
しかし、実際には、各クラスで1日1授業分程度を目安として、3クラスに1クラス分程度のコンピュータの配置を想定することが適当としています。
つまり、児童3人に一台ずつのパソコンやタブレット端末を用意することが目標になっています。
ただ、平成28年の時点では、6.2人に1台のコンピュータが整備されているという調査があり、小学校によってはまだ整備が追い付いていない現状があります。
そのような小学校では、プログラミング教育の開始に向けて機器の購入をしていくことが必要であり、学校予算の負担になると考えられます。
また、理科などの教科では、コンピューターだけではなく、電子工作のキットなども利用することがあるため、その購入も別途必要になるでしょう。
そのため、学校の負担が増えないように、安価で優れた教材や工作キットなどの需要が高くなると考えられます。
まとめ
プログラミング教育は、子供たちのIT教育や、プログラミング的思考を育むといった良い面があると考えています。
しかし、一方でその導入には、児童や教員、学校自体への負担が大きくなる可能性もあります。
そのため、2020年からのプログラミング教育の開始にあたっては、注意深く教育現場を見ていく必要があると言えるでしょう。
児童や、教員の現場の声を聴きながら、プログラミング教育のメリットが発揮されるように常に改善されていくことが望ましい状態だと考えています。